midashi_v.gif 『大神宮儀式解』の奥書

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 経雅の『大神宮儀式解』は、宣長の『古事記伝』と共に、近世国学の水準の高さを示す業績であるが、また両書が二人の友情の産物であったことも忘れてはならない。
 石水博物館所蔵の『大神宮儀式解』は、全30巻。神宮の高官が写し、宣長晩年の門人で一癖も二癖もある殿村安守が奥書を書き、その伝来には深野屋という謎に満ちた本屋が介在するという、興味の尽きない写本である。

 奥書は安守の自筆である。字体は、書簡や歌、また、例えば天理図書館所蔵『座右雑記』の序のような強い癖こそ出ていないものの、安守らしさは随所に見られる。また、この写本こそが、流布する本の中でも特に勝れたものだ、と書いてくれと深野屋に頼まれたので書く、つまり頼まれたから誉めるという、まことに安守らしい奥書だ。

【翻字】
此延暦儀式解三十巻は、内宮の故三祢宜中川従三位荒木田経雅神主のあらはされたるを、同宮の故二祢宜薗田従三位荒木田守諸神主の清くかゝれたるにて、彼家にひめおかれたるを、ゆゑありて文化四年五月に此郷の書賈深野屋利助小泉公忠かあかなひ得て、其家の蔵本にはなりたるなり、この儀式のあるか中にふるきよし、此解の出来たるよしは、作者のみつからの跋、故本居大人のはし書、薗田神主、末偶ぬしなとのしりへかきに述おかれたれば、今さらにいはず、また式のもともたふとみおもみすべき事、解のつばらにあきらかなることは読て知るべし、さるたふとくあきらかなる書にしあれば、二宮の神官たちをはしめ、いにしまなひするともから、をちこちに写しつたへてもていつくめるを、数多の巻々なればおのつからうつしたかへ、かきもらせる字はたおほかりなむ、それよみかむかへ見あはせむにはこれそ此原本なりといふことのよしを一くたり書しるしてよ、と公忠かこふまゝにかくしるしおくになむ、文化十一年八月 伊勢松阪 大神安守

【大意】
この延暦儀式解は故中川経雅神主が書かれた本を、やはり故人の薗田守諸神主が丁寧に写された本で、薗田家の蔵書として大事にされてきたが、故あって文化四年五月に松阪の本屋深野屋利助こと小泉公忠が買ってきて、深野屋の物となった。そもそもこの儀式帳と言う本が類書の多い中で大変古い本であり、それに経雅神主が注を付けて儀式解としたことなどは、経雅神主自身の跋文、故宣長先生の序文、薗田神主や、荒木田末偶の後書きに書かれているので詳しいことは省略する。また、この儀式帳がどんなに大事な本であるかとか、この儀式解が非常に詳しい注釈であることはこの本を読めば分かるので、これ又省略する。その様に大事な本であるから、内宮外宮の神主や、国学者はあちこちで写して大事にしているが、何しろ巻数の多い本であるから、どうしても写し間違いや、書き漏らしが生じるのは仕方のないことである。そのような杜撰な写本が多い中で、校合し訂正するにはこの薗田神主の写本こそが原本となるべきだ、とそのような事訳を書いてくれと公忠が頼んできたのでこのように書き記す。文化十一年八月 伊勢松阪 大神安守。

【参考文献】
『特別展伊勢神宮2000年・神宝の美』(会期1996年9月29日〜11月11日)図録、四日市市立博物館。



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