midashi_v.gif 「ふみよみ百首」

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 『鈴屋集』巻9(宣長全集・15-162)に載る。天理図書館に第一次草稿が、また第二次草稿が寛政12年庚申『詠稿十八』(宣長全集・15-503)には「ふみよみ百首」の題で収められる。順番が異なり(第一次草稿と二次草稿とも小異あり)、加筆訂正もある。全68首。

 書よむうへの事ともくさぐさ思ひつゝけける歌とも古風にはあらねとこゝについつ

1 すかの根の長き春日もみしかきそ書よむ人のうれひなりける

2 ぬるかうちも道ゆくほとも書よまて過るそをしきあたらいとまを

3 おもしろきふみよむ時はぬることもものくふこともけにわすれけり

4 朝夕に物くふほともかたはらにひろけおきてそ書はよむへき

5 くうものはみちてもきゆるはらのうちに長く残るはよめる書なり

6 書よめは倭もろこしむかし今よろつの事をしるそうれしき

7 ふみよめはくはしくそしる天の下ゆかぬ國々よものうみ山

8 書よめは見ぬもろこしの國まても心のうちのものになりつゝ

9 書よめはむかしの人はなかりけりみな今もあるわか共にして

10 花鳥のよにおもしろき色も音もこもりて見きくよむ書のうち

11 ふみよめは心のうちに時わかす花もさきけり月もすみけり

12 書よめは千里のよそのことまてもたゝこゝにして目に見ることし

13 ふみよめは花も紅葉も月雪もいつともわかす見るこゝちして

14 酒のみてうたひまひつゝあそふより書よむこそはよにたのしけれ

15 書よめはたえてひさしき事そなき人もとひこす酒ものまねと

16 ふみよまてなにつれつれなくさまむ春雨のころ秋の長き夜

17 六月の風にあつとて取いつれはやかてよままくほしき書とも

18 あつけれと書よむほとはわすられて夏も扇はとらむともせす

19 うつみ火のもとによるよるおきゐつゝさむさわすれて見る書そよき

20 跡たへて深くふりつむ冬の日もふみ見る道はゆきもさはらす

21 なつむなよふみ見る道に朝霜のとけぬ所はさてもすきゆけ

22 ふみ見るにけはしき道はよきてゆけまたき心の馬つからすな

23 おもしろき山川見つゝゆけはかも書見る道はくるしくもあらす

24 もろもろの書見る道はよるひると千里ゆけとも足もつかれす

25 ゆきゆけはつひにはいたりつくものを書見る道はあしおそくても

26 くらくともほともなく夜は明ぬへし書見る道にやみななけきそ

27 けたてよめ心のあふらさしそへてさよはふくとも書のともし火

28 よむ書をしはし枕にかり寝してうしやおほへす暁のそら

29 よるひるのたゝしはらくのいとまをもいたつらにせて書をよむへし

30 いたつらに過る月日もをしとたにおもはてやふるふみよまぬ人

31 をりをりにあそふいとまはある人のいとまなしとて書よまぬかな

32 よるひるとよめとも書はあかなくによまて世をふる人も有けり

33 書よむをたゝむつかしき事とのみ思ふはよまぬ故にこそあれ

34 書よむをふさわしからぬわさとのみおもふはよまぬゆゑにこそあれ

35 いろはたにえしらぬ人をはかなしと見つゝ書見ぬ人のはかなさ

36 ふみよまぬ人はいろはのもしをたにえしらぬ人になにかことなる

37 大かたはいとまなき身もしはらくのいとましあらは書はよむへし

38 いとまなき人こそあらめいとまある人はなとてか書よまさらん

39 いさよまんと思へはたれもよまるゝを書よむいとまなしといふめり

40 書よむは又たくひなきたのしみをよみ見ぬ人はしらぬ成けり

41 書よめはおほやけはらもたゝれけりひとりわらひも又せられけり

42 佛ふみよめはをかしきことおほみひとりわらひもせられける哉

43 あともなき空言ふみにはかられて身をもあやまつ人のはかなさ

44 むかしよりいつはり書をそらこととさとれる人のなきそあやしき

45 そら言のをしへの書を神のこといつきたふとむ人のおろかさ

46 漢ふみも見れはおかしきふしおほしもののことはりこちたれけれとも

47 から書もこれは言よきからふみと思ひてよめはそこなひもなし

48 いかなれは代々のかしこき人々のそらこと書にまよひ来ぬらん

49 あたこともよめはよむかひある物をいつれの書かよまてすつへき

50 よまねとも倭もろこしもろもろの書をあつめておくもたのしみ

51 世に見えぬめつらしき書えしあらはよくわきまへよまこといつはり

52 いつはりの人まとはしのえせふみも世におほかるをはからぬなゆめ

53 偽の書をつくりて人はかる人はいかなるこゝろなるらむ

54 あちきなくいつはり書を造りいつるあたらいとまに真書よみなて

55 のこりたる名をきくたひにゆかしきはたえて世になき古のふみ

56 ひろはたの神の御代にそくたらより書籍てふものはたてまつける

57 今よりの千年の後やいかならむ出くるふみのかすまさりつゝ

58 たのしみはくさくさあれと世の中に書よむはかりたのしきはなし

59 よむふみに心うつれは世の間のうきもつらきもしはしわすれつ

60 書よめは心にもののかなはぬもうきよのさかと思ひはるけつ

61 世のわさのにこりにそめる人心ふみよむほとはきよくすみけり

62 ふみ見すはよにはしらしな神路山たかくも見えてたかきこゝろは

63 千萬の籍もとしへておことらすよめはよみうるものにそ有ける

64 めつらしくあかさる書は長かれと思ふにはやくをはるわりなさ

65 書はしもつねに明暮よるひるとよめともあかぬものにそ有ける

66 さはりありて一日一夜もふみ見ねは千年もよまぬこゝちこそすれ

67 わかよはひのこりすくなしいくかへりよめともあかぬ書はおほきに

68 玉の緒のなかくもかなやよの中にありとある書よみつくすまて


>>「ふみよみ百首抄」



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