経済生活

 『玉勝間』の中に「金銀ほしからぬ かほする事」という段がある。
 こんなことが書かれている。

 学者の中に、金など要らぬと恰好をつける人がいるが、学問をするにも金は必要だ。今の世の中金があれば何でも手に入るし、よい本も金で買える。とはいうものの、金々と浅ましいのに比べたら、金など要らぬと言う顔をしている方が遙かにましだ。

 正論である。学者はかくあるべきだという既成概念は無視する。貨幣の持つ意味を認識する。社会生活のモラルを重視する。つまり、自分の頭で考えて行動する、実に宣長らしい発言だ。

 宣長は商人の子だ。金の持つ力、また怖さもよく知っていた。そしてその活用の方法も熟知していた。出版という金のかかる作業を継続し、また春庭の失明と治療という、ともすれば破綻しがちなほどの家政を、家計簿なども自分でつけることで徹底管理して本居家の経済生活を見事に維持していった。

「ただ本居家においては、収入が多ければそれだけ支出も嵩み、蓄積がほとんどできぬまま、生活に追われた家業経営がいつまでも継続する。それは、学者にありがちの、脱社会的な小安居の世界ではない。貧窮を時には吐露しながら、生活規模を縮小せず、収支の額面が常に大きく持続しているのは、本居宣長の生活力の大きさを示しているように思われる」
          「本居宣長の簿記と家業経営」北原進(宣長全集・19解題)


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(C) 本居宣長記念館


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