midashi_v.gif 『古事記伝』への道

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 『古事記伝』とはどんな本ですか?
 本居宣長が、35歳頃から35年をかけて69歳の時に書き終えた『古事記』の注釈書です。第1巻では、『古事記』と言う本の価値を明らかにし、『日本書紀』等の本との比較、書名、諸本、研究史、また解読の基礎となる文体論、文字や訓法についてまず書き、宣長の古道(古代世界を貫く理念のようなもの)についての考え方を述べた「直毘霊」(ナオビノミタマ)、第2巻は序文の解釈と系図が載ります。第3巻から第44巻が本文とその訓読、注釈です。書かれてから既に200年以上経過していますが、いまだに『古事記』研究書としての価値を失っていません。

 どうして漢字で書かれているのですか?
 太安万侶の頃には、日本人はしゃべる言葉は持っていても、平仮名も片仮名もまだ発明していなかったのです。

 宣長が『古事記』という書名を知ったのはいつ頃ですか?
 宣長が書いたものの中で最初に『古事記』の名前が出るのは、16歳の時に起筆した『経籍』という本の名前ばかり集めた本です。その中に、「本朝三部ノ本書」として、「旧事紀クジキ【ワ雑十巻】、古事記コジキ【ワ雑三巻】、日本紀【ワ雑三十巻】』が出ている。

 買ったのはいつですか?
 京都遊学中の宝暦6年7月(宣長27歳)に、『先代旧事本紀』と一緒に10匁2分で購入した。大山為起という神官の旧蔵本だったようで為起の書き入れもあります。同月、『日本書紀』を読み終えているので、その流れで両書を買ったのでしょう。

 研究しようと考えたのはいつ頃ですか?
 28歳で松坂に帰郷した宣長は、和歌の根源に遡るうちに、上代へと足を踏み入れていきました。現代風に言えば、日本人とは何かという問題を考え始めたのです。
 この頃、賀茂真淵の『冠辞考』を借りて読んでいます。これは『万葉集』に出てくる「枕詞」(冠辞)の辞典ですが、古代研究の方法や理念にも触れています。一回読んだくらいでは理解もできなかったようですが、それでも繰り返し読んでいるうちにだんだん真淵の学問へ引きつけられていきました。
 この本の中に、『古事記』と『日本書紀』の両方に出ていることは『古事記』を引用した。なぜなら『古事記』は真実の書だからだ、とあります。
「古事記、日本紀に同じく有ことをは古事記を挙つ、古事記はまことのふみ也、紀はから文に似たらんとつとめ書つれば、訓におきて人のおもひまどふ事もまじれば也、されど紀にてことわり明らけきをば紀を先とせり、旧事紀は後につくれるものにて、古意ならぬ事おほきふみなればとらず」(序附言)
 宣長は、『日本書紀』や『先代旧事本紀』、『古事記』を比較しながら この「『古事記』は真実の本だ」という真淵の言葉を慎重に検証しました。一つの成果が宝暦11年3月の「阿毎莵知弁」です。
 この頃、宣長は「石上」(イソノカミ)と言う号を付け、署名に使ったり、『石上集』や『石上私淑言』など書名にも使用しています。古代への憧憬の念の一つの現れでしょう。また、一方では『万葉集』の講釈も開始しています。そんな中で、だんだん『古事記』を読む必要性を痛感していったのです。

>> 『阿毎莵知弁』
>> 「石上」


 研究を決意したのはいつですか?
 宣長自身は、30代前半、真淵先生の教えを受け始めた頃から『古事記』を研究しようと思って、その事を先生にも申し上げたと書いています(「あがたゐのうしの御さとし言」)。
 宝暦13年(1763・34歳)5月25日、宣長は江戸の国学者・賀茂真淵と対面(松坂の一夜)する。この頃には、すでに注釈を書こうという志があったと考えていいでしょう。
【原文】
「宣長三十あまりなりしほど、縣居ノ大人のをしへをうけ給はりそめしころより、古事記の注釋を物せむのこゝろざし有て、そのことうしにもきこえけるに、さとし給へりしやうは」『玉勝間』巻2「あがたゐのうしの御さとし言」。

>> 「松坂の一夜」
>> 『玉勝間抄』


 『古事記伝』の起稿時期はいつですか?
 真淵と会った翌宝暦14(明和元)年1月12日、子の日。嶺松院会で歌会始。この日、手沢本『古事記』(寛永版本)を度会延佳本で校合しました。
 もちろん、一日で出来るはずがないので、しばらく前から着手していたはずです。
 また、同月18日、年始開講で、『日本書紀』「神代紀」の講釈を始めています。定日は8の夜で、明和3年(1766)3月10日に終業しました。
 実は『古事記伝』を何年何月から書き始めたかは正確にはわかりません。ただ、校合は注釈の基礎作業、準備ですから、この年1月「『古事記伝』執筆に着手」と考えていいでしょう。

>> 「一ヶ月に何回くらい講義をするのか?」
>> 「宣長の使った古典のテキスト」の『神代紀』
>> 「『古事記』の校合」



(C) 本居宣長記念館


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