『古今集遠鏡』(コキンシュウ・トオカガミ)

 6冊。寛政5年(1793)頃成立。同9年刊行。
「遠鏡」とは望遠鏡のこと。実はこの前年、和泉国貝塚の岩橋善兵衛が、国産天体望遠鏡第1号を制作して、5年には京都で天体観測会が開かれている。岩橋の望遠鏡は、八稜筒で直径が24センチから27センチ。長さがその十倍と言う大きなもので、「阿蘭陀わたりの望遠鏡よりもよくみゆ。余が家にも所持す」と橘南谿(1753〜1805・久居の儒医)は『西遊記』の中で記している。ちなみに天体観測会を主催したのも橘南谿である。「遠鏡」という書名がブームに乗ったものとは言えないまでも、このような時代風潮の中にあったことは見逃してはならない。

 さて本書は、『古今和歌集』の全歌(真名序、長歌は除く)に、今の世の俗語(サトビゴト)、つまり口語訳、また補足的な注釈を添えた本。横井千秋の序文に「この遠鏡は、おのれはやくよりこひ聞えしまゝに、師のものしてあたへたまへるなり」とあるように。千秋のもとめで執筆した。訳は、てにをはに注意し、また言葉を補う場合はその箇所を明示し、厳密な逐語訳となっていて、一見、初学者向きの入門書ではあるが、高い水準を保っている。 『古今集』は宣長にとって最も尊重する、また愛好した歌集であった。

「古今集は、世もあがり、撰びも殊に精しければいといとめでたくして、わろき歌はすくなし」(『うひ山ふみ』)。
 新年の読書始めも同集序を選んでいる。講釈も『源氏物語』や『万葉集』と並んでその中軸となるもので、生涯に4度も行っている。一つの本の回数としては最高である。


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