玉勝間についての21の質問(Q11~Q17)

【『玉勝間』の読み方】
Q11、ところで、200年も前の随筆集を今も読む人はいるのですか。 
宣長の本の中では、よく読まれていると思います。まず、宣長に関心を持つ人が読みます。この本の中には、読書遍歴や研究を続ける中で巡り会った人との思い出が書かれています。また、随筆ですから宣長が何に関心を持っていたのかが分かります。次に古典研究者です。本書には、宣長の50年に及ぶ研究の成果がびっしり詰まっていますが、気になって書き留めはしたものの未解決なこともたくさん書かれていて、研究者にとっては宝の山となっています。あとは、暇な読書家です。拾い読みすると実に面白いですよ。たとえば、針の穴をミミヅといったとか、三味線を和歌に詠めと頼まれた話とか。1005項目、色々楽しみ方はあります。
Q12、絵は入ってないのですか?
説明のためのごく簡単な挿絵が二枚入っています。
Q13、読もうと思って開いてみましたが最初のページでいやになってしまいました。
 最初から読まずに、たとえば次のような順序で読んでみて下さい。
 まず、伊勢国松阪についての概説「伊勢国」(巻14)を読んで下さい。
 次に宣長の読書遍歴を見てみましょう。「ふみども今はえやすくなれる事」、「おのが物まなびの有しやう」、「あがたゐのうしの御さとし言」、「おのれあがたゐの大人の教をうけしやう」(以上巻2)を読んでいただくと、少年時代から契沖の本との出会い、賀茂真淵(アガタイノウシ)との対面(「松坂の一夜」)までが書かれています。
 宣長の考え方を知るには、「道にかなはぬ世中のしわざ」(巻2)、「富貴をねがはざるをよき事にする論ひ」(巻3)、「うはべをつくる世のならひ」(巻4)、「金銀ほしからぬかほをする事」(巻12)、「しづかなる山林をすみよしといふ事」(巻13)、「一言一行によりて人のよきあしきをさだむる事」(巻14)を読んで下さい。たとえば、「金銀ほしからぬかほをする事」では、お金が有れば本も買えるから、ありがたいが、あまり金々言うよりは、いらぬと言っている方がよいと言っています。私たちの感覚、価値観と大変よく似ていると思いませんか。また、「人は教えによりてよくなるものにあらず」という言葉が「教誡」(巻14)に出てきます。これは既に同じようなことを荻生徂徠も述べていますが、自分の体験や観察に基づく発言でしょう。また宣長は、自分の考えはしっかりと持っていて、本質を見逃すことはありません。巻7の「世の人仏の道に心のよりやすき事」や「道をとくことはあだし道々の意にも世の人のとりとらざるにもかゝはるまじき事」は、そのような冷静な目で見た文章です。
 学者、また師としての宣長の意見は、巻2の「師の説になづまざる事」、「わがをしへ子にいましめをくやう」、「玉あられ」(巻6)、「おのれとり分て人につたふべきふしなき事」(巻7)の外、あちこちに出てきます。
 また、「花のさだめ」(巻6)には好きな花のことが、「絵の事」(巻14)は絵画論。「おのが京のやどりの事」(巻13)や、先にあげた「伊勢国」は一種の都市論です。
Q14、 聞いているだけで頭がくらくらしてきますね
読んでみると存外面白いと思います。読み方は、ざっと飛ばし読みして、また後から読み直す、これが秘訣です。宣長が『うひ山ぶみ』でも言っているように、「初心のほどは、かたはしより文義を解せんとはすべからず、まづ大抵にさらさらと見て、他の書にうつ」るようにして下さい。音読するのも良いかもしれません。
Q15、家族のことなどプライベートな記事はありませんか?
学者としての悩みは、最後の段「道」(巻14)にも書かれてますが、国学者として、後世に書き残しておきたいことが、この『玉勝間』という本の執筆目的ですから、自分の回想でも、書く以上は、何か意味があるのです。まったく個人的なことは、求める方が無理ですよ。
Q16、ところで、この本に一番よく出てくる人は誰ですか?
日本人では契沖、賀茂真淵、神武天皇の順です。また、日本人以外では、孔子が多いですね。
Q17、ほかに面白い箇所はありませんか?
「もろもろの物のことをよくしるしたる書あらまほしき事」(巻10)では、百科事典があったらなあと言っています。もちろん百科事典ということばはありませんが。「今の世人の名の事」(巻14)の「近きころの名には、ことにあやしき字、あやしき訓有て、いかにともよみがたきぞ多く見ゆる」はそのまま現在でも通用する見解ですね。また「十二支の巳を美(ミ)といふ事」(巻8)には、十二支の子はネズミ、卯はウサギの略はわかる。さて、巳はヘミ(『和名抄』)の略ならなぜ同じ二文字の丑寅は略しないか。またネズミ、ウサギは略するのに未(ヒツジ)はなぜ略さないかとあります。宣長っていろんな事を考えていたんだなあと驚きますね。「手かくこと」(巻6)もぜひ読んで下さい。宣長が自分の書く文字についてどう考えていたか分かります。

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