『筑前の国学者 伊藤常足と福岡の人々』


文政6年(1823)、筑前の国学者・伊藤常足一行が松坂を訪れた。
『大熊言足紀行』は、同行した米屋清蔵(大熊言足)の日記。
この度、前田淑さん手で活字化された。

宣長没後22年目にあたる文政6年は、本居家周辺は大騒動の連続だった。
一行にはどこまで騒動の実態が伝わっていたのかわからないが、
記載内容が豊かで、問題の中心人物・富樫広蔭や足代弘訓、
小津久足や殿村安守なども出てくる。
今後、この方面の研究が進む中で重要な資料となるだろう。
特に個人的にありがたかったのは、
津で小西春村宅を訪問した記事で、
小西家が津の書肆・山形屋伝右衛門(『馭戎慨言』等刊行)のむかいにあった、との記述である。
豊宮崎文庫の見学や文化人との交友。
松坂から津に向かうに『古事記』ゆかりの阿坂神社を経由するなど、
一行の学業への関心の深さがうかがえる。

前田さんは、帆足京『刀環集』や小田宅子『東路日記』などを紹介した
『近世女人の旅日記集』(葦書房)の編者。
ちなみに、帆足京は、
このホームページ「ようこそ宣長ワールドへ」で、
また宅子は、
田辺聖子『姥ざかり花の旅笠 小田宅子の「東路日記」』(集英社)
でよく知られている。

最期にちょっと珍しい話。
これは解説の所に出てくるのだが
三井高蔭に短冊を所望したら一枚しかくれなかった。ケチ!
などという面白い歌が紹介されている。
学者の旅の実態がうかがえる、情報盛りだくさんの一冊。

267ページ。
2000円(税別)
弦書房 TEL092-726-9885
2009年8月10日



>>「本居家は大騒動(文政6年)」

2009.11.18